「あと十分で、取引が流れるって。」経理係のチルノは、社長を名乗る相手からのチャットを見つめていた。いつもなら必ずある、先輩の確認も、社長本人への電話も、今日はまだ済ませていない。
これは、警察庁が注意を呼びかけている「ビジネスメール詐欺(BEC)」の手口を参考に再構成した、架空の防犯ストーリーです。チルノ・霊夢・魔理沙は物語上の役を演じています。作中の会社名・取引先はすべて架空のもので、特定の企業や事件を描いたものではありません。
送金してしまう前に立ち止まって確認したいポイントを、物語を通して紹介します。
いつもの確認、いつもの承認
チルノは小さな製造会社の経理係。働きながら簿記の勉強を続け、いつか一人で月次決算を担うのが目標だ。隣の席の霊夢は経理の先輩で、支払いの確認役。魔理沙はこの会社の社長で、取引の最終承認をする。

その青いマグ、また持ってきたの?

お気に入りなの。今日は締めの数字を合わせるよ
その日はいつもの取引先への支払い日だった。チルノは納品記録と請求書を照合し、振込先の口座名義も確認する。

請求は八万円。納品記録と合ってる。いつもの番号で取引先にも確認した

私も資料と振込先を確認したわ。社長に承認をもらいましょう

納品と請求の確認は済んでいるな? ……よし。私も確認した。支払いを承認する
二人で金額と振込先を再確認してから送金する。会社の口座には、月末の支払いに備えた運転資金として四百八十万円が残っていた。社長の承認、先輩の確認、取引先への裏取り。三段階の確認を経て、八万円は無事に送られた。

一人になった席へ、メールが届く
午後、魔理沙は得意先回りに外出した。霊夢も倉庫の確認で席を外す。一人になったチルノの元に、社長の名前で一通のメールが届いた。差出人欄には、社長の名前と、正しい会社名が書かれていた。

社長から、個別の業務連絡? 出先だと、こっちの方が便利かな
メールには、取引の連絡を別のチャットアプリへ移すよう指定されていた。チルノは言われた連絡先へ移動する。そこで待っていたのは、社長を名乗る相手からの「特別な仕事」の依頼だった。

急な仕入れを進めている。経理で、支払いを頼みたい。今回は新しい相手だ。まだ商談中だから、今は広めないでくれ。先に君だけで準備してほしい

あたいだけで、ですか?

締めの仕事ぶりを見て、任せた
朝「頼んだ」と言われたひと言と、この依頼が重なって聞こえた。信頼に応えたい気持ちが膨らんでいく。
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あと十分で、条件が変わる
相手は、仕入れの前金として百八十万円を要求した。振込先の口座名義は、いつもの取引先と違う。チルノは、いつもの確認を試みる。

百八十万円……口座名義が、取引先と違います。社長の電話で確認できますか?

支払いを受ける代理会社の口座だ。今は会議中で電話に出られない。ここで返事をしてくれればいい
同じ相手からの返事が、まるで確認そのものであるかのように感じられた。そして、期限が告げられる。

あと十分で、条件が変わる。遅れたら、この仕入れを逃す。待たずに進めてくれ。私の指示だ

霊夢さん、まだ戻らない……。あたいが遅らせたら、困るよね。会社の役に立ちたかったんだ
午後二時五十七分、チルノは百八十万円を送金した。

確認した。よく対応してくれた
肩の力が、少しだけ抜けた。しかし安心する間もなく、追加の指示が届く。

追加で、百二十万円が必要になった。残りも手配してくれ。急いでほしい

これも払ったら、合計三百万円。月末の支払いは、どうするんだろう
青いマグのお茶は、すっかり冷めていた。ここまでの送金額を整理すると、こうなる。


戻ってきた霊夢、本物の社長
倉庫の確認から戻った霊夢が、手の止まったチルノに気づく。

どうしたの? 手が止まってる

社長から、追加の送金を頼まれて。今日のメールで、このチャットに案内されたんだ

支払いの書類は? ……いつもの番号へ、電話してみよう
霊夢は社内に控えてあるいつもの番号へかけた。追加の百二十万円は保留にし、本物の社長につながる。

前金の件、確認させてください

前金? 今日は頼んでいないぞ。そんなメールは、送っていない
戻った社長と記録を照合すると、承認した覚えのない取引だと分かった。チャットの相手は、社長を名乗った別の人物だった。会社が失った金額は百八十万円。保留にした百二十万円は、送らずに済んだ。

会社の役に立ちたかったのに。名前も、会社も、合ってたんだ

知っている名前でも、本人とは限らない。一人で急がせる指示ほど、止めよう

簿記の勉強は、続けたい。次は、止まる判断も覚えるよ
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送金前に確認したい4つのポイント
最初のメールへ、戻ってみよう。表示名や会社名が正しくても、それだけでは本人の証明にはならない。チャット移行や急な期限を告げる指示にこそ、立ち止まる理由がある。
- 連絡手段の変更を指示されたら、届いたメールへの返信や本文中の電話番号では確認しない。以前から把握している連絡先を使い、電話か対面で本人に確かめる。
- 誰への、何の支払いで、金額と口座が変わる理由は何か。取引先へも、既知の連絡先で確認する。
- 見積書や請求書と、振込先の口座名義を照合する。書類があっても、それだけでは本物の証明にならない。
- 社長の指示でも承認手順は省略しない。二人以上で根拠と振込先を確認し、電話がつながらなければ送金を保留する。
急ぎも秘密も、確認を省く理由にはならない。確認できなければ、送らない。止まることも、会社を守る仕事だ。
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出典・参考資料
この物語は、公的機関の注意喚起を参考に再構成した架空のエピソードです。登場する会社名・人物・取引はすべて創作であり、実在の個人・団体とは関係ありません。



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